タイでのオンライン販売を考えるとき、多くの日本企業様が最初に門を叩くのが、ECプラットフォームの雄、Shopeeでしょう。
その集客力と手軽さは、確かに魅力的です。
しかし、2019年から複数の自社・クライアント様のブランドでShopeeを運営してきた、私たちKENKOPLUSだからこそ、
今、どうしてもお伝えしなければならない「現実」があります。
多くの情報サイトが語る「新規顧客が増える」という光の側面。
その裏には、事業の根幹を揺るがしかねない、深い影もまた、存在しているのです。
本記事は、タイで本気でビジネスの成功と利益を追求する企業様のためだけの、『机上の空論』ではない、
現場からの実践的なレポートです。
少し、耳の痛い話かもしれません。
第1章:見えるコストの爆発 — 5年で2.5倍になった販売手数料
まず、誰の目にも明らかな「見えるコスト」からお話しします。
結論から言うと、参加するプログラムや店舗の状況によって変動はありますが、私たちが複数のアカウントを実際に運営する中で算出した実効手数料率の目安は、2019年頃の約7%から、現在【2025年10月時点】では最大で約18%にまで上昇しています。
かつては無料だった「送料無料プログラム」や「キャッシュバックプログラム」は、今やセラーが追加で負担する有料サービスとなりました。これは、Shopeeの親会社が「成長」から「利益」へと経営方針を舵切りしたことの現れです。
しかし、この手数料の高騰は、いわば「氷山の一角」にすぎません。 本当に恐ろしいのは、これからお話しする、貸借対照表には現れない「見えないコスト」なのです。
第2章:見えないコスト — 本当に恐ろしい3つの戦略的リスク
リスク1:『顧客』を奪われる — 名簿が取れないことの本当の恐怖
これが最大のリスクです。Shopee上でどれだけ商品が売れても、私たちは購入者の詳細な連絡先リスト(顧客名簿)を
手に入れることはできません。
これは、ダイレクトマーケティングを事業の軸とする会社にとって、大打撃です。
Shopeeは、顧客を私たちに「紹介」してくれるのではなく、あくまでプラットフォームに帰属する顧客を
「貸してくれている」だけなのです。
さらに深刻なのは、顧客の流出です。
これまで私たちの公式サイトで商品を購入してくださっていたお客様が、Shopeeの利便性(ポイントや送料無料)に惹かれ、
そちらに流れてしまう。
SNS広告で多大なコストをかけて自社サイトに集客しても、購入直前でShopeeに移動してしまう。
そんなカニバリゼーション(共食い)が、私たちの現場でも実際に起きています。
リスク2:『利益』を奪われる — 15日間返品無料の悪夢
Shopeeでは、購入者は15日間、どんな理由であっても商品を返品できます。
このルールの恐ろしい点は、以下の3つです。
返品理由を問われない:「気が変わった」という理由でも、返品は成立します。
返品送料は、ショップ側(私たち)が負担する。
返品が成立しても、Shopeeに支払った販売手数料は返ってこない。
これまで、デパートや弊社のコールセンターでは、お客様と直接対話し、納得いただいた上での返品対応が基本でした。
そこには、お客様側にも一定の「返品のハードル」がありました。
しかし、Shopeeを介することでそのハードルは劇的に下がり、「とりあえず買ってみて、気に入らなければ返品」という行動が、
以前にも増して増えているのが私たちの実感です。
この負担は、利益率を静かに、しかし確実に蝕んでいきます。
リスク3:『主導権』を奪われる — プラットフォームの言いなりになるしかない構造
言うまでもなく、Shopeeの手数料改定やルール変更に対して、個々のセラーに拒否権はありません。
プラットフォームという巨大なインフラの上で商売をする以上、そのルールに従うしかないのです。
これは、自社のビジネスの根幹(価格設定、利益構造、顧客との関係性)を、自分たちで完全にコントロールできないリスクを
常に抱え続けることを意味します。
まさに、「他人の土地で、家を建てる」ようなものです。
結論:では、どうShopeeと付き合うべきか? — 私たちの哲学
ここまで厳しい現実をお話ししましたが、私たちは「今すぐShopeeから撤退すべきだ」と言いたいわけではありません。
問い合わせの手間なく新規顧客を獲得できるなど、他のチャネルにはないメリットも確かに存在します。
私たちが21年間の現場経験から導き出した、最も重要な結論。
それは、Shopeeを「全て」にしないことです。
自社ECサイト、SNSのダイレクト販売、そして百貨店などのオフライン店舗。
それぞれのチャネルが持つメリット・デメリットを完全に理解し、顧客データを自社で確実に蓄積しながら、
貴社にとって最適なチャネルの組み合わせ(オムニチャネル戦略)を構築する。
その複雑で、泥臭い方程式を解き、タイの市場で本当に利益を残し続けること。
それこそが、21年間現場に立ち続けた、私たちの真価であり、使命なのです。